山陽レジン工業という会社 |
山陽レジン工業株式会社は岡山市南区にあるFRPで、浴槽や、医療機器の外装カバーなど各種産業機器製品を作っている会社だ。完成品を製造するメーカーから依頼を受けて部品を造る下請けとしての仕事と、トラボやドッグバスといった自社製品を開発・製造・販売するメーカーとしての仕事の両方を担っている。 |
山陽レジン工業のはじまり |
守屋社長はもともと機械いじりが好きで、その関連の会社に勤めていた。その会社で一緒に働いていた先輩が独立しFRPを使う仕事を始めた。 「守屋さん休みの日にでも手伝ってくれませんか?」という流れで、守屋社長も少しずつFRPにふれることが多くなり、FRPに無限の可能性を感じるようになっていった。そのうち先輩は製品開発を中心に行うようになり、守屋社長が製造するという形になり、守屋社長も独立し会社を作ったことが山陽レジン工業の始まりだ。 |
無限の可能性を秘めるFRPという素材 |
FRPとは、Fiber Reinforced Plastics の略で、日本語では繊維強化プラスチックと呼ばれる。FRPには、ガラス繊維を用いたGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)や、炭素繊維を用いたCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)などをはじめとして、様々な種類がある。 GFRPは軽量で安価であるのが特徴で、小型船舶の船体や、自動車の外装、浴槽など多用途に用いられ、山陽レジン工業でもこのGFRPを用いて製品を作っている。CFRPのほうがGFRPより軽量で強度も強く、ゴルフクラブのシャフトや航空機などに用いられるが、非常に高価になるため完成品の価格を抑える必要のあるものには向かない。しかし、近年、用途が増えつつある。 FRPは色やデザインを自由に設計することができ、少量から生産することができるという特徴を持つ。工場の機械でつくる大量生産品は、製品の金型の製造に何百万円、何千万円とかかってしまうため、最低1000個とか、5000個とかの製造が見込めるものでなければ、コストが合わなくなってしまう。その点、FRPを製造するための型費は桁が2つほど落ちるため、5個や10個という少量からでもコストを合わせることができるのだ。 FRPは少量生産ができて、色やデザインも自由にできるため、この業界では「無限の可能性を持つ素材」という表現をよくするのだそうだ。 |
FRPの依頼から納品までの流れ |
1.企画・打合せ FRPは、それだけで製品になるものは少なく、製品の部品という位置付け的なことが多いので完成品を製造するメーカーから依頼を受けるという形でスタートする。おおまかな設計がされた状態で依頼がくるのだが、FRPについてメーカーの担当者が詳しいわけでもないため、細かい設計や提案は山陽レジン工業からすることも多いという。 2.木型の製作 価格や納期の全容が決まり、正式に山陽レジン工業に注文が入ると、次は木型の設計に入る。木型は山陽レジン工業が仕様を決め、木型の専門業者に発注をする。 3.試作品製作 出来上がった木型を使い、試作品を製作する。試作品を作るときと、本製品を作るときの差は基本的には木型を使うか、生産型を使うかの違いくらいしかない。 成形品を脱型するための離型剤を2~3回塗布する。次に製品の表面をつくるためにゲルコート(自在に着色できる)をスプレーガンなどを使い吹き付けていく。 ゲルコートが固まったうえで、マットを何枚(製品に求められる強度によって貼り付ける枚数が変わる)も貼り付けていく。ただ貼り付けただけだと気泡が残ってしまい、それが外観に影響を与えてしまうため、ローラーで脱泡していく。 必要な厚みまでガラス繊維のシートを貼り付けて、気泡を抜き、硬化してから型から外し、不要部分を切り取り、必要であれば穴を開ける加工を施す。 最後に製品表面を磨き完成させる。 4.生産型製作 依頼者に試作品を納品し、OKであれば生産型を製作する。生産型もFRPで製作するため、まずは木型から本製品と全く同じ形のマスター型を作り、そのマスター型を使って木型と全く同じ形の生産型を作る。 5.量産・納品 生産型を使い、依頼者からの受注数分だけ製品を量産し、その後の発注に応じて追加の生産をしていくことになる。 |
作り手に応えてくれる素材「FRP」 |
FRPの生産工程は単純で、材料も簡単に手に入るため、少し知識があれば誰にでも作る事ができる。雑に作ると雑なものが出来上がり、精密に作ると精密なものが出来上がる。同じ型を使って同じ材料を使って生産をしても、その出来上がりには差が出来る。 山陽レジン工業では品質で差別化をするために高品質にこだわる。守屋社長は「モノづくりは人づくり。品質は人から生まれる」と考えており、品質を支える人に対するこだわりが強い。こだわりが強く、要求が高いため、その要求についていけずに職場を去った人もいるほどだが、その信頼から山陽レジン工業のFRP製品は大手メーカーに採用されたり、医療機器に採用されたり、価格競争ではなく、品質で選んでもらえる安心を作り上げることに成功している。 |
自社製品を生み出すメーカーとしての山陽レジン工業 |
山陽レジン工業では依頼者から受注した製品を生産する下請けという仕事が全体の仕事量の6割を占めるのだが、一方でFRPを使った自社製品の開発から製造、販売、メンテナンスまでの担うメーカーとしての仕事が4割ある。 最初に開発した自社製品は、ホンダのバイクの燃料タンクだ。もともと純正品として付いている燃料タンクはガソリンの容量が5.2Lであるが、山陽レジン工業の開発した燃料タンクには9.4Lのガソリンが入るため、ガソリンを給油するタイムロスを大幅に減らせるということから耐久レースに参加する人からとても喜ばれた。既に生産終了して15年以上も経つのだが、たまにオークションに出て話題になり、そこから何件も問い合わせが入ることもあるようだ。 現在自社製品の主力として販売しているのが軽トラ専用荷台ボックス「トラボ」だ。守屋社長が軽トラで配達をしているときに、突然の雨で商品が濡れてしまったという経験から構想が始まったのだという。幌(ほろ)をつけるとバックミラーで後ろが見えなくなってしまう上に、施錠ができるわけではないため荷台に載せているものが盗難にあうリスクもある。シートも同様だ。かといって箱車にしてしまうとコストもかかるのと、軽トラ本来のトラックとしての利便性を損なってしまう。守屋社長はFRPを使って、ピックアップトラックのトノカバーのようなものを作れないか考え始めた。 ところが施錠ができるカバーを付けようと思うと、トラックに穴を開けなくてはいけなくなり、守屋社長自身、自分だったらトラックに穴なんて開けたくないと考え、なかなか製品にまで落とし込むことが出来なかったという。「出来ない理由をなくせ」ということが口グセの守屋社長は考えに考え抜いた末に、カバーだけではなく、下の部分も付けて箱型にしたら上手くいくと閃いたのだという。 箱型にすることで、トラックに穴をあける必要がなくなる。またトラックの車種によらず載せることができるため多くのトラックに対応できる。そして箱型ならば不要なときには降ろすということができるため軽トラ本来の利便性を損なうことなく搭載することができる。このような流れを経てトラボの開発に成功することができたそうだ。現在は改良が加わり、断熱加工を付加した機種も加わり、牛乳配達の業者から喜ばれているという。 |
目指すは“楽しい”会社 |
守屋社長が目指す会社は“楽しい”会社だ。若い人が集まって、色々な物を作っている会社。自分達が思ったものをどんどん生み出していく工房のような会社。最先端でなくても先端をいっている感覚があり、自分達が未来を創るという想いがあれば、寝食を忘れて仕事に没頭できる。帰れと言っても社員が帰らない、そんな雰囲気の会社を作ることを目指している。 |
インタビュアーから |
浴槽やボートやプールなどFRPは身近にはあっても、それがFRPだと思うこともなければ、そこに興味を持つこともなかったのですが、このインタビューを通して、FRPから広がる未来に胸が躍りました。ゼロからイチを創りだしていけるモノ作りの世界、とても興味深いです。 |