大黒天物産という会社 |
大黒天物産株式会社はESLP(Everyday Same Low Price)を標語に、生鮮食品のディスカウントストア「ラ・ムー」「ディオ」などを全国100店舗以上展開する流通業の会社だ。2012年には東証一部に上場している。 |
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大黒天物産の安さの理由 |
大黒天物産の特徴は何よりも低価格。特売で安くするのではなく、ESLPに則り、毎日同じ低価格で、生鮮食品を提供している。大黒天物産が出店すると、その地域では消費者物価指数が5%落ちるとテレビの取材がくるほどの低価格を実現しているのだが、その価格を実現するために大黒天物産では様々な工夫をしているという。 ・一品大量陳列 大黒天物産で扱う商品は、競合他社の品揃えと比べると1/3から1/4程度しか店舗に陳列しない。大黒天物産が扱うのは売れ筋商品のみと決められており、売れ筋ではない商品は一切置かないということを徹底している。同じ売り場面積の競合他社と比較すると、大黒天物産では品揃えが1/3ということは1品あたり3倍の量を置くことになる。3倍の量を置くということは、3倍の量を仕入れることにつながる。仕入れ量が増えれば増えるほど、メーカーや卸売業者から仕入れる価格を下げることができるという仕組みだ。 ・ダンボール直置き陳列 大黒天物産の売り場を見ると、ダンボールが何段か積まれた上にダンボールのまま商品が陳列されている光景を目にする。大黒天物産は競合他社と比べて、バックヤードが非常に狭い。バックヤードに倉庫を持つのではなく、夜中のうちに到着した商品をアルバイトの人がそのまま店内に置く。一番上の商品がなくなったら下のダンボールを開け、空き箱を一番下に置く。そうすることで売り場面積を増やせるのと、品出しにかかる時間を短縮でき、それも価格を下げることにつながる。 ・売り場を彩るディスプレイの禁止 売り場にダンボールが積まれていることもそうだが、売り場にポスターを張ったり、季節の装飾をするというディスプレイもしていないことに気が付く。メーカーから店内ディスプレイ用としてタレントの写っているポスターを受け取ることがあるが、それを貼ることも禁止をしているようだ。競合のスーパーなどではハロウィンの装飾をしたり、クリスマスツリーを飾ることが当たり前とされているが、その装飾にかかる材料費、装飾を取り付けたり、取り外したりする人件費は、商品に上乗せしなくてはいけなくなる。100円で販売できている商品を101円にしなくてはいけなくなるため、大黒天物産では徹底して行わないと決めている。 ・シンプルなサービス 大黒天物産では、小売では当たり前とされている様々なサービスを行わないと決めている。たとえば「週末6倍ポイント」「週末7倍ポイント」とするとポイントを求めてお客様は店選びをするため、薬局ではポイントカードは当たり前のように活用されているが大黒天物産はポイントサービスはしない。お中元やお歳暮の受付もしない。配送サービスもしない。包装もしない。クレジットカードも使えず現金のみの取り扱いだ。一般的なサービス業では価格競争は差別化につながらないため、サービスに力を入れるというのがセオリーだが、大黒天物産は逆の考えを持つ。サービス競争になると差別化ができなくなるから価格で差別化するという考えのもと、シンプルにどこよりも価格を安くすることこそがサービスであると考えている。 ・24時間営業 スーパーで最も電気代がかかるのは冷蔵庫や冷凍庫であり照明ではない。冷蔵庫や冷凍庫の電源を切るわけにはいかないため、閉店をしても、電気代はかかり続け、開店するまで利益はずっと垂れ流され続けることになる。また開店業務、閉店業務にも人の手がかかるため、同じ、商品が陳列してある状態であるのであれば、24時間営業にしている方が経費だけがかかり続ける無駄な時間をなくすことができると考えている。 ・自社で全てを行う 大黒天物産では店舗で販売するというラ・ムーやディオという業態だけではなく、大黒天ファーム笠岡という子会社が農業を営み、そこから収穫した野菜を店舗に並べたり、サイリン・クリエイトという子会社がリサイクル事業を営み、店舗で使い終わったダンボールを集め、圧縮し、業者に販売をしている。その他パンの製造、豆腐の製造、店内・店周辺の清掃、自社製品を開発・製造するメーカー、そして海外から直接食材を輸入する商社としての役割も自前で持っている。 欧米のディスカウントストアの中には「自分達は小売のプロだから、陳列や品揃えなどは外注に出して、販売することだけに特化する」と考え、低価格を実現する企業がある。日本でもディスカウントストアに限らず、専門性の高い分野は専門家に委託し、自分達の強みの部分に特化をするということはよくある話だが、大黒天物産は外注に出せば出すだけ、外注先企業の利益が上乗せされるため商品を安くすることができなくなると考えているのだ。 |
小売業ではなく流通業 |
ラ・ムーやディオなどのディスカウントストアという業態は一般的には小売業と分類される。小売業は、いかにして自社の商品をお客様に販売するかを考える業態。しかし、大黒天物産は、いかにして店舗に低価格の商品を置き続けるかを考えるため、自社を小売業ではなく流通業だと定義している。 流通業とは、商品を消費者まで届けるまでの産業のことで、具体的には、商品を仕入れて小売店へ販売する「卸売業」、商品を生産者、製造者から小売店へ届ける「運送業」、商品を一時的に保管しておく「倉庫業」、最終消費者に商品を販売する「小売業」の4つをまとめて流通業という。 大黒天物産が小売だけにこだわらず、生産・製造から販売まで手掛けるのも、すべて価格を下げるためにしていることだ。 |
すべては価格を下げるために |
大黒天物産がESLPをかかげ、低価格にこだわるのは、それがお客様の豊かさの追求につながると考えているからだ。四人家族で週に4~5日大黒天物産で食品を買うことで食費を安く抑えることができる。浮いたお金で、家族で旅行に行ったり、趣味や学費に回すことができ、結果的に暮らしが豊かになっていく。 日本人の年収はなかなかあがっていかないという状況の中で、大黒天物産が食費を限りなく落としていくことで、年収が変わらなくても豊かさを感じられる人が増える。それが大黒天物産が価格を下げることにこだわる理由だ。 |
大黒天物産で働くということ |
大黒天物産では、年間に10店舗以上のディスカウントストアをオープンしている。毎年10店舗オープンするということは、毎年10人の社員が副店長になり、10人の副店長が店長になるということを意味する。大黒天物産は20代の店長、20代のバイヤーなど、圧倒的に若くして役職の得られる会社だと言える。 若くして役職を任せることを考えると、社員には早い成長が求められる。社員の成長を促進するために、大黒天大学という教育の場をつくるなど教育投資にも力を入れている。 ただし、配属に関しては個人の希望が聞き入れられることは少ないという。それはスーパーで一度も働いたことのない学生が出す希望が、そのまま適正と一致するとは限らないからだ。大黒天物産では入社してから2年間は新入社員として最低三部門、様々な部門を経験し、2年後に正式配属になる。様々な部門を経験するなかで上長やエリアマネージャー、人事課が個人の適性をみて配属が決まる。 個人の希望を通すよりも、会社全体で適性をみながら働き方を決めていく方が大黒天物産の目指すESLPを追究していけるという考え方だ。 大黒天物産で得られる働くやりがいは、何と言っても売れる喜びだという。低価格での一品大量陳列をすることで、大量の商品があっという間に売れていくという経験をするようだ。そのどんどん売れていく状態はやりがいにつながるのだという。 |
2035年1000店舗に向けて |
2000年に50億円だった売上は2013年に1146億円に成長し、店舗数も5店舗から96店舗に増加した大黒天物産は、2020年には300店舗、3583億円、2035年には1000店舗、1兆2075億円を目指している。大黒天物産の店舗が全国に広がれば、それだけ日本全国で食費が下がることにつながる。豊かさの追求を目指し大黒天物産は挑戦し続けていく。 |
インタビュアーから |
価格こそがお客様が望む一番のサービスと考え、価格を下げるための仕組みを構築し、実際に低価格を実現している大黒物産の話を伺い、20年後の壮大な目標も、その考えに共感して、働きたいと思う人が集まれば本当に実現していくんだろうなと強く思いました。 |