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小坂田建設という会社
小坂田建設は昭和30年に創業した建部町にある建設会社だ。建設の中でも土木を中心に公共工事、民間工事を行っていたが、2009年から大きな変化をとげ、雨樋の掃除、草取り、田畑の改修など地域の人の生活に関わる小さな仕事を積極的に請け負う建設サービス業として成長を遂げている。
「建築」と「土木」
建設業は大きく、地面より上の部分を作る「建築」と、地面より下の部分を作る「土木」に分けることができる。

土木は高度成長期に日本中の道路やトンネルや橋が整備される中で、公共事業が溢れていたため、ほとんどの会社は公共事業をあてに仕事をしていた。小坂田建設も例外ではなく、高度成長と共に成長を続けてきた会社だが、1998年頃から公共工事が激減し、少なくなった公共工事に多くの建設会社が殺到するため行政機関が100万円と提示していても、過当入札により85万円、80万円と金額が落ち、利益も少なくなっていった。1998年と2014年を比べても土木で働く人の単価は8割にまで落ちているようだ。
倒産の危機が会社を変えた
▲ 小坂田建設の経営理念
小坂田建設の経営理念は
「私達は、笑顔溢れる建設サービス業として、事業を通じて地域の笑顔創造カンパニーを目指します」
と、建設業ではなくサービス業であるということを社内外に強くアピールしている。

実はこの理念は、2009年に会社が倒産しかけたときに、このままではいけないと会社の進むべき方向性を定めるために考え始め、2014年1月に出来上がったものなのだが、この理念を定めることで、事業の方向性が決まり、お客様が決まり、仕事内容が決まったのだという。

地域の笑顔創造カンパニーを目指しているので、直接笑顔を創造しようと考えたら公共事業ではなく民間。そして民間の中でも個人のお客様のお役に立てる会社でありたいとなってくる。そうなると経営的には大きなメリットがいくつかある。
お客様が決まることで得られる経営的メリットとは
▲ 重機での作業
一つ目が設備投資のメリット。公共工事を請け負うことになると、大きなダンプトラックや大きな建設機械が必要になり、それらは時に1000万円以上の投資となる。これを、個人をメインのお客様にすると決めることで350万円程度の機械で十分ということになり、設備投資が抑えられる。公共工事を請け負うとなったとしても、そのときは大きな建設機械をリースすればいいので問題はない。

二つ目が資金繰りのメリット。公共工事は例えば4000万円と非常に金額は大きいのだが、手付金で40%の1600万円が渡され、工事が進んでいくと追加で20%の800万円が渡され合計60%の2400万渡されたことになる。残り40%の1600万円は工事が完了してから渡されることになるのだが、材料費・労務費など必要経費はそれ以前に必要になるので結局1600万円は自分達で用意しなければならない。資金が潤沢にある企業であれば自己資金で賄えるが、建設企業では多くの場合銀行から借り入れを行う必要があるので、ただでさえ低い利益の中で金利を負担しなければならないというダブルのデメリットがある。それが個人が対象だと工事期間も短く、単価も低いので銀行に借り入れをしなくても仕事ができる。

三つ目が事業の安定性のメリット。公共工事は入札となり、小坂田建設のある地域では約35社で競うようだ。その金額に大きな開きがあるわけではなく数千円単位の差なので、1/35の確率で受注になるという不確定なものなのだ。年商2億円の企業で4000万円が不確定で受注になったり、ならなかったりとなると、それは売上が運で大きく変わるということなので、民間の比率を高めていくことで、事業は安定していくのだ。
民間の仕事を増やすことに成功した秘策
▲ 笑顔通信
個人のお客様が小坂田建設に仕事を依頼するということは、それまでもあった。地域の方は小坂田建設のことを知っていて、知っている人が仕事を依頼してくれていた。

しかし、アンケートをとったときに思ったほど多くの人が小坂田建設のことを知らないということに気付いたのだそうだ。建設機械に大きく名前を載せていたり、ダンプトラックに名前が入っているので、360戸6000人が住んでいる小さな町ならもっと知られていると思っていたそうだが、実際はそうではなかったのだ。

そこで建設業では異例だが、「笑顔通信」という自分達で作ったニュースレターを建部町と久米南町南部の2600戸に毎月第一日曜日、新聞折り込みチラシという形で配布し始めた。内容は仕事に関係ないこと、少し仕事に関係あること、料理の事、社員の紹介と、仕事の売込みというより、小坂田建設という会社や働いている社員のことがわかる、面白い読み物になっている。これを5年間続ける中で、小坂田建設という会社に誰がいて、どんなことをしている会社なのか、ということが少しずつ地域の人に浸透していった。またこの笑顔通信は認知度が向上しただけではなく、建設業の持つイメージの打破にも役に立っているようだ。

トンネル工事や道路工事をしている建設業が持たれるイメージの一つとして「高そう」というイメージがある。そのイメージが敷居を高くして自分たちには関係のない会社だと個人のお客様を遠ざけてしまうのだが、実際は「玄関の扉を変えてほしい」「排水管がつまったから見てほしい」「足腰が悪くなってきたから庭の草取りをしてほしい」と、とても身近な仕事の依頼があり、小坂田建設は建設サービス業として、仕事を請け負っている。笑顔通信によって、一つひとつの仕事のBefore Afterを知ることで、個人のお客様から仕事がどんどん舞い込むようになってきたのだという。

個人のお客様からの仕事が増えてきて、2015年の小坂田建設の売上比率は公共2割、民間8割になったそうだ。

before

after

断らない小坂田建設
個人のお客様と仕事が増えてくると、小坂田建設だけでは対応のできない仕事の依頼を受けることもある。たとえば建築の部分。キッチン周りを新しくしたいというリフォームの依頼は小坂田建設では専門外なので受けることができない。

しかし、小坂田建設で対応ができなくても、対応できる業者を紹介することができるので、現在は建築の分野でお客様から要望があったときには、小坂田社長が信頼をしている業者に外注にだすことで対応ができる形をとっている。

将来的には建築の経験のある人を採用して、自社でできるようにしていきたいと小坂田社長は言う。
地域密着を追究するとブランドになる
土木に限らず、地域の方の小さなことから対応する小坂田建設が目指しているのは頼れる地域の町医者だ。「何か困ったことがあったときに小坂田建設に連絡をしたら解決してくれる」と地域の人に思ってもらえることを目指しているのだそうだ。

地域の町医者はその地域の患者さんの対応だけをして、他の地域はその地域の町医者が対応するというのが一般的だが、小坂田建設も地域に強くこだわっている。

小坂田建設の本社がある建部町は政令指定都市の岡山市の中にあり、全体で31万戸という巨大な潜在顧客がいる。建部町に限定すると2300戸になるので潜在顧客は大幅に減ってしまうのだが、地域を限定することで得られるメリットがある。
まず、毎月発行している笑顔通信も岡山市全体に出すとなると経費がかさみ、毎月出す事が困難になる。地域を限定するから価格が抑えられ、毎月出す事ができるのだ。そして、従業員の働く時間にも大きな影響がでる。

地域を限定して働いていて本社が近いため、毎朝会社に出社して顔を合わせてからそれぞれの現場に向かい、お昼の休憩には本社に帰ってくる社員も多い。勤務時間が17:20までだが、17:20にはだいたい皆が帰ってくるため、早い時間に帰宅することができる。大都市で大規模な工事現場に入り、数年間家に帰らずバリバリ働き高収入を目指すという働き方を否定するわけではないが、小坂田建設では残業をほとんどせず家に早く帰り自分の人生を豊かにすることを良しとしているのだ。

地域に密着することでお客様が限定される。そうなるとお客様も小坂田建設の社員一人ひとりの顔が見えるようになり会社との付き合いというより、人と人の付き合いができるようになる。それがブランドにつながるのだ。

潜在顧客が狭まると言っても、2014年11月の時点で建部町の小坂田建設のお客様は約350戸。建部町だけでもまだ1950戸の潜在顧客がいるので、これから更に人員を増やして小坂田建設は地域の町医者としてのブランドを創り上げていくと小坂田社長は語った。

▲ 地域の人との交流イベントの受付

▲ スーパーボールすくい

▲ わたがし

インタビュアーから
建設業は肉体労働なので、どうしても若者に敬遠されてしまうと思っていましたが、最近ではほとんど機械で仕事をするので健康であれば問題ないということと、定時間勤務が求められる職場なので、ワークライフバランスを大切にしている人には、とても魅力的な選択肢になると思いました。