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板野酒造場という会社
▲ 社屋
有限会社板野酒造場は岡山市北区で日本酒の製造と販売を行う会社だ。創業は昭和9年、製造直売という特徴を生かして、作りたての新鮮なお酒を店舗で販売し、その魅力をお客様に伝えている。若者の日本酒離れが進む中、板野社長が伝えたい日本酒の魅力とはどのようなものなのだろうか。
おいしさ再発見!組み合わせの秘密
お酒の楽しみ方は人それぞれだ。日本酒を飲みなれていない人におすすめなのは吟醸酒。フルーティーな白ワインのような味わいで飲みやすい。日本酒をよく飲む人は、食べ物と日本酒の組み合わせを意識してみると、より楽しみ方のバリエーションが広がるという。例えば豚しゃぶを食べるとき、まだ口にお肉の味が残っているうちに純米のぬる燗を飲むと、後味がスカッと切れるという。また、板野社長は個人的にチョコレートと日本酒のコンビもおすすめだという。合わせるものによってお酒は化けるのだ。「いろいろな組み合わせを試してみると面白いと思う。」と板野社長は話す。
広がるお酒のしあわせ
▲ 接客の場面
日本酒の楽しみ方を伝えるためには接客の場面での心配りが重要だという。お酒の味は食べ物との組み合わせで変化する。お客様の要望に合わせた商品提案や、おすすめの飲み方のアドバイスができれば、よりお酒の魅力が伝わる。実際に「今年の酒はこんな特徴ですよ。」というスタッフの説明を聞いて商品を決めるお客様も多いそうだ。時には自分用ではなくプレゼント用のお酒を買いに来るお客様もいる。その場合はお客様とのやりとりの中で商品を吟味し提案する。後日そのお客様から「この間勧めてもらったお酒を贈ったら、おいしかったと喜ばれたんだ。」と笑顔で言われることが喜びとなる。自分の接客がきっかけになって、購入した人から他の誰かへ日本酒が渡る。自分の知らないところで、自分がおすすめした日本酒が誰かを笑顔にする。お酒の魅力を伝えることで誰かを幸せにできるやりがいが、そこにはある。
製造方法で変わる味
日本酒造りには、「玄米を磨き米の外側の余分な成分を落とす」「米を洗って水に浸す」「米を蒸す」「原材料の発酵に必要な麹(こうじ)を造る」といった様々な工程がある。おいしいお酒を作るコツはそれら一つひとつの工程を正確に行うことだ。少しでも気を抜くと完成品の味が変わってしまう。「精米(せいまい)」と呼ばれる、玄米の外側を削り余分な成分を取り除く工程もその一つだ。私たちが食べる白米は玄米の外側を5%削って作られているが、大吟醸用は米の外側を60%削り、米の中心部分のみを残して使うという。60%も削ると、発酵の際に酵母の栄養分になるアミノ酸などの成分が少ないため、酵母は栄養失調気味になる。栄養失調気味になった酵母はなんとか生き延びようとして強い香り成分を出す代謝を起こす。これが日本酒独特の香りが生まれる秘密だ。また、米の外側をどれだけ削るかが、お酒の味にも大きな影響を与える。たくさん削ると軽やかですっきりとした飲みやすいお酒に、あまり削らないと米本来の味わいのあるお酒に仕上がる。精米の次の米を水に浸す工程ではストップウォッチを使い、その年の米に合わせた最適な時間で吸水させる。たった数十秒の吸水時間の違いがお酒の味を左右するという。「思い描いた味を出すためには、決まったことを決まったようにすることが大切なんです。」と板野社長は言う。日本酒造りの工程は、一つひとつが職人の技術力を求められる完成品だ。心の緩みはすべてお酒の味に現れてしまう。おいしいお酒にどれだけこだわれるかは、自分との戦いだ。
酒造りのやりがい
▲ 修行先からいただいたお守りの狸
「酒屋万流(さかやばんりゅう)」という言葉がある。日本酒の味や製造方法は蔵によってそれぞれに特徴があるということだ。板野社長は日本酒造りの修行をしていた時、修行先の蔵のお酒を飲んでみた。その味は、実家の蔵のお酒とは全く異なり、「造り方によってこんなに味が変わるのか!」と日本酒造りの奥深さに驚いたという。修行を終えた板野社長だが、納得のできる麹(こうじ)の味を出すために約8年かかったそうだ。限られた設備と予算の中で試行錯誤を繰り返すのは簡単なことではない。だからこそ、ようやく自分の思った通りの味が出せた時、その達成感は計り知れない。自分が作ったお酒を試飲して、それが美味しかったとき、そして、それを口にしたお客様が喜んでくれたとき、板野社長は喜びと共にこの仕事のやりがいを感じたという。
これから日本酒の魅力を知る人へ
▲ お酒うどん
板野酒造場の主力商品はもちろん日本酒だが、そのほかにも少し変わった商品がある。お酒うどんとお酒ケーキだ。どちらも生地の中にお酒が練りこまれており、日本酒が苦手な人や子どもでも食べられる。これらの商品は日本酒に馴染みのない人が日本酒に親しむ入り口になってほしい、という想いから考案された。「私たちの仕事は、多くの人に日本酒のおいしさや楽しさを伝えることなんです。」板野社長は言う。
板野酒造場が目指すもの
▲ 板野社長
板野社長は今後、より鮮度が高く「板野酒造場でしか買えない」商品の開発に取り組んでいきたいそうだ。新商品の開発には、独創的なアイデアや異なる角度からの意見が欠かせない。それらのヒントはお客様とのコミュニケーションの中に隠されているかもしれない。「地域に愛され、100年も200年も続く地元密着の会社を目指したい。」と板野社長は語る。ただの酒造メーカーではなく、日本酒のおいしさと楽しさを伝える会社として、今後も挑戦は続く。
インタビュアーから
この度初めて酒造場にインタビューに伺いました。もともと抱いていた「日本酒造り=お堅い」イメージとは異なり、時代の流れに合わせ日本酒の楽しみ方もどんどん変化しているようです。変えてはいけないもの、変えていくべきものを見極めて、より多くの人々に日本酒の魅力を伝える。日本酒の可能性はまだまだ未知数だと感じました。