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キノシタショウテンとは?
キノシタショウテンは、瀬戸内市邑久町にあるカフェだ。岡山駅西口には2号店のTHE COFFEE BARもあり、一見するとコーヒーショップの経営を専門にしているように見えるが、キノシタショウテンが強みとしているところは、買い付けたコーヒー豆を焙煎し、販売するところだ。その他エスプレッソマシンや、コーヒー豆を挽くミル、コーヒーを抽出するドリッパー等、コーヒーに関わる機器の販売も手掛けている。
コーヒーが飲めないからコーヒーにはまった
キノシタショウテンを経営する木下尚之さんは、実はコーヒーが飲めなかった。そう言う今も実は飲めるコーヒーと飲めないコーヒーがあるそうだ。木下さんは高校を卒業してから、カフェの経営がしたいと考え、カフェの責任者の募集に応募をした。応募したカフェを経営している母体の会社がたまたまコーヒーの商社だったのがコーヒーとの出会いだ。

カフェの責任者になったところで急にコーヒーが飲めるようにはならない。飲めないというより飲むと気持ちが悪くなるという状態だったが、コーヒーの商社で働く上でコーヒーが飲めないということは致命傷になる。コーヒーの味がわからないと仕事にならないので、コーヒーの勉強をし始めることになった。勉強をするうちに飲めるコーヒーと、飲めないコーヒーがあることに木下さんは気付き「この飲めるコーヒーは何なんだろう?この美味しいコーヒーな何が違うんだろう?」と探していった。この勉強の過程でコーヒーのことばかり考えるようになり、いつしかコーヒーにはまっていったのだそうだ。
飲めるコーヒーと、飲めないコーヒーの違い
市販されているコーヒー豆や粉は、酸味や苦み、コクという、味の違いが明記されて売られている。この違いはコーヒー豆の品種や産地の違いによるものだと思ってしまいがちだが、それだけではない。同じ産地でも農園が違ったり、育て方が違ったり、またコーヒー豆というものはコーヒーの実の種を割った中にある部分なのだが、実をとって種の状態ではぬめり気があり、これを取り除かなくてはならない。ぬめり気を取り除く方法も、水槽に入れてバクテリアに食べてもらう方法、機械で取り除く方法など様々で、その精製の方法によっても味や風味が変わるのだそうだ。

キノシタショウテンはLCF(リーディング コーヒー ファミリー)という全国で100店舗ほどの個人商店が集まって、世界に流通する上位3%くらいの上質なコーヒー豆を買い付けをするグループに所属しており、原価は高くても豆の品質には強くこだわっているという。

飲めるコーヒー、飲めないコーヒーの違いは、コーヒー豆の品種、産地、農園、育て方、精製の仕方によるコーヒー豆自体の品質の違いが最も大きいのだがそれだけではない。どんなに上質なコーヒー豆を仕入れてきても、その状態ではコーヒーを淹れることはできない。
▲焙煎前(左)と焙煎後(右)
工程の1つに焙煎(ばいせん)がある。コーヒー豆という農作物をどう調理をするのかが焙煎という工程なのだが、火の入れ方一つで同じ豆でも苦みを強くしたり、酸味を強くしたり、風味を変化させることができる。この焙煎という工程が非常に奥深い。

単純に考えると、火をたくさん入れると香ばしくなり苦みが強くなる。火をあまり入れないとフレッシュで酸味が強くなるというものだが、一気に高温で火を入れて表面を焦がすか、じっくり時間をかけて内部に火を入れるかで風味は違ったものになり、また煙突から抜けていく空気の流量でも違いがでる。そのためここには熟練の技術と経験が必要になってくるのだが、木下さんが感じた飲めるコーヒーと飲めないコーヒーの違い、もっというと美味しいコーヒーを追究していこうと思ったら素材にこだわり、調理方法にこだわる必要があるのだという。
専門を極めていく
美味しいコーヒーを淹れるには、素材である豆にこだわり、焙煎にこだわり、挽き方、淹れ方にこだわるということが考えられる。どの工程も100%正しいという方法がないため、どれも奥深いのだが、木下さんはその全てを手掛けようとは考えていないようだ。

ここまでコーヒーにこだわっていると、いずれ自分の農園を持って豆からこだわりたいという想いがあっても不思議ではないと考えてしまうが、すべてを一人でやろうと思ったら、全てが中途半端になってしまうという。

例えば、キノシタショウテンが焙煎した豆を卸しているカフェから「自分のところで焙煎もしようと思っている」と相談を受けることがあるそうだ。木下さんは「もちろん焙煎も始めてもいいと思うんですけど、焙煎をするようになると、カフェに割く時間が割かれることになり、今よりもカフェのサービスレベルが落ちるかもしれないですよ」とお伝えしているという。

コーヒー豆を作る農園には200年の歴史をもつところもあり、経験、知恵とノウハウが蓄積し、日々高めていっている。焙煎にも同じことが言える。もちろんカフェ経営だってそうだ。すべてを一人でするよりも、それぞれを専門としているところに出向いて、自分の要望を伝えるほうが自分の専門分野に集中することができ、美味しいコーヒーを多くの方に届けることにつながるという考えで、木下さんは自身の専門を、豆の買い付けから焙煎、そして焙煎した豆の販売と定義している。
キノシタショウテンではカフェも運営し、お客様にコーヒーを提供しているが、それはあくまでコーヒーの愉しみ方を提案する場なのだという。キノシタショウテンで出しているフードメニューはコーヒーを引き立てるものしか置いていない。コーヒー屋の目線で考えるフードメニューを提供し「家でされるときには、こういうプレートを使うといいですよ。こういうメニューだとコーヒーを愉しめますよ」と提案することを目的としているので、キノシタショウテンを多店舗展開していくことは考えていないのだそうだ。

2号店のTHE COFFE BARはカフェをメインにしているブランドなので、このブランドの多店舗展開は考えているようだが、木下さんの専門はあくまで買い付けしたコーヒー豆を焙煎し、上質なコーヒー豆を販売するところなのだ。
今後の夢
木下さんの夢は、岡山でコーヒーを趣味とする人、生活の一部とする人を増やしていくことだ。東京では情報の発信がしっかりできているのが理由かもしれないが、豆を買いに来るお客様の中には「ブラジルの豆をください」という産地を指定する方、それだけでなく「ブラジルの○○農園の豆をください」と農園の指定までする方、場合によっては精製方法まで質問して買っていく方などコーヒーショップの経営者レベルの知識を持っているお客様もいるそうだ。

コーヒーを生活の一部として愉しむ人を増やすには、岡山でも情報発信をしていく必要があると木下さんは考えている。コーヒーを愉しむにはワインを愉しむのと同様に、深い知識がいる。産地の違い、農園の違い、精製の違い、焙煎の違いによりどのように味や風味が変化するのかを知っていて、自分の理想とする組み合わせを知り、それを語れるようになれば今よりもコーヒーを生活の一部として愉しめる人が増える。木下さんは情報発信をしていく媒体として今後、雑誌の発刊をしていきたいという。
インタビュアーから
木下さんが焙煎し、キノシタショウテンで淹れているコーヒーを口にして、同じコーヒーでもこだわればここまで美味しくなるのかと感動しました。酸味のあるコーヒーは苦手だったのですが、それはただ酸化しているだけで本当の酸味はフルーティーなものだと初めて知りました。一つの道を極めようとする職人の仕事に心奪われます。