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株式会社誠屋という会社
▲ 桜の季節に撮影した社屋
株式会社誠屋は創業して70年の歴史を持つ会社だ。創業当初は八百屋を営んでおり、時代の流れとともに、学校給食を始め、医療福祉関連の商材も扱うようになった。現在では総合食品商社として、食品に関しては全てのものを扱っている。他にも、酒やタバコ、医療機器のカテーテルも扱っている。商圏は主に岡山県全域で、東は姫路、西は尾道まで、毎日配送を行っている。
お客様と長く繋がる仕事
誠屋には、営業、営業事務、総務、仕入れの4つの職種がある。その中でも、お客様と直接関わりを持っていくのは、営業と営業事務である。
▲ 営業の仕事
営業はルート営業のスタイルをとっている。営業一人ひとりが毎日トラックで回るルートを持っていて、そのルート上のお客様に日々商品を届けながら商品を提案していくのだ。新規開拓を行う場合は、もし今のルート上で新規開拓が可能であればやっていくという形をとる。ルート上にない場合は専務や常務が直接赴いて新規開拓をする。
▲ 営業事務の仕事
営業事務は営業のサポートをする。電話対応、伝票対応、注文処理が主な仕事だ。一般的な事務と思われるかもしれないが、営業事務も電話を通してお客様と接点を持つ。お客様とコミュニケーションを取る以上は営業であるというのが誠屋の考え方だ。お客様との接点についても、最初の一回の関係を持つのは営業の力でも、その関係が継続するかは営業事務の力とも言える。
創業70年の会社が事業を大きく変えた理由とは?
誠屋は、平成8年に大きな転機を迎えた。それまでは学校給食が売上の8割、レストランや惣菜販売などの外食産業が残り2割を占めていたのが、現在の売上高の内訳は、8割が医療・福祉関係、外食産業と産業給食が1割ずつである。なぜ八百屋から始まった会社が医療・福祉関係に重きを置くようになったのか。

それは、現社長の櫛田修平さんが、今後の社会は少子高齢化が進むだろうという予測の元に判断を下したからだった。以来、誠屋は、医療・福祉関係の商材を中心に事業展開を進め、現在、岡山県下では、“病院”と名のつく施設はほぼ全てと取引している。県下の福祉施設も9割のシェアを獲得している。また近年では、岡山県下の保育園の新規開拓も行っており、ここでは主にアレルギーを持った子どもでも食べられる食品を提供するようになったそうだ。

▲ 誠屋で扱う商品

▲ 決して切らしてはいけない流動食

「食」に懸ける想い
▲ 毎日「食」を届けることで命をつなぐ
「我々明日は仕事しませんので、皆さん食事を我慢してください」
と言われて、素直に頷く人はいないだろう。つまり、食品の卸売業というのは、365日欠かせない、人々の生活に密着した仕事なのである。また、現在の誠屋の商品を必要としているのは、主に体のどこかに疾患を持っている人々である。そういった人たちは様々な都合から“それしか食べられない”という人も多くいる。つまり、そういった人達にとっては誠屋の仕事こそが命綱とさえ言えるのである。
「人気だったから品切れですっていうのはダメなんですよ、うちの場合。これが切れたら亡くなる人がいますから。絶対に切らしてはいけないんで。」
インタビューの中で、櫛田常務はこう語った。生活の根幹である「食」の流通を担うということは、「命」を担うということと同義であるのだ。
仕事を通して、取引先の病院の現場スタッフの方々から、患者さんの状態が良くなったという声をもらうことが何より嬉しいそうだ。

誠屋の商品を必要としているのは、それを直接食べる人たちだけではない。その商品を現場で使う管理栄養士の方々にも、大いに必要とされている。
昨今、介護報酬などの引き下げにより、介護現場等では非常に資金繰りが厳しい状況となっている。その中で一番経費がかかるのが人件費である。病院、介護施設側が患者、入居者に以前と同じサービスを提供しようとすると、サービスに直接関わるところ以外で経費を削減していかなくてはならない。そこに誠屋の商品が求められる。

誠屋の商品は、基本的にひと手間加えるだけで完成する商品が多い。そのような商品を使っての人件費の削減、現場の作業の効率化が図れるのである。これにより、提供できるサービスの質を落とすことなく、現場の環境改善、経費削減が可能となる。そういったことに対する感謝の声が頂けた時も非常にやりがいを感じる時なのだそうだ。

「食」を通じて、食べる人にも使う人にも貢献する、これが誠屋の大切にしていることだ。
一対一の客商売~元気、素直、笑顔の三拍子~
▲ 笑顔で電話応対をする
誠屋はオンラインショップで全国のエンドユーザーにも商品提供も行っている。現場の使用者、消費者からの声がやりがいに繋がるのなら、オンラインショップで販売した場合のやりがいはどこにあるのだろうか。

オンラインショップの場合は、リピーターとお礼のメールである。新規で注文したお客様が何日後かにまた同じ商品を注文する。このことから商品を気に入ってもらっていることがわかる。また、オンラインショップの利用者も日々の「食」に対して問題を抱えていることがある。例えば、親が忙しくてご飯を作る余裕がない家庭や、体力的に買い物に出られないお年寄りから、ひと手間加えるだけの誠屋の商品だから、また、ドラッグストアでしか売っていなかった商品が家まで届くから、という理由で重宝され、お礼の手紙まで貰える。そういった時に大きなやりがいを感じるのだそうだ。

オンラインショップといっても、実は電話注文がほとんどだそうだ。これはエンドユーザーの年齢層が高いことによるもので、タイアップしている病院からもらったカタログを見て注文してくるのだそうだ。電話で話す際に最も大事なのは声である。声のトーンで、表情や感情は伝わるので、たとえ電話越しでも笑顔で応対することが重要となってくる。また、日々の業務で何件も電話対応をするわけだが、お客様にとっては、一人の担当者との一対一の商売である。となると、対応する側も、何千件の中の一件ではなく、電話の向こうのお客様その人と会話するという意識が大切なのだそうだ。当然、臨機応変にお客様一人一人に合った対応をしていくことも重要である。

配送にしても、電話対応にしても、誠屋が大切にしているのは、「元気、素直、笑顔」の3つだ。それだけ聞くとあたり前のことで、誰もができるように思えるかもしれない。しかし、少々効率が悪くても、それでも素直で元気に頑張る、そういう姿を見て、人は応援したくなるものだ。お客様も人間である。人に好かれること、これこそが営業にとって大切なことなのである。
更なる事業拡大へ
▲ 左から専務、社長、常務
近年医療の分野へと進出し、その地位を固めてきた誠屋。今後はどのような方針で事業を拡大していくのだろうか。これに対し、櫛田常務から返ってきた答えは、兵庫県開拓,通販事業の拡大,そして商品開発の3つだった。

兵庫県の市場といえば、神戸が主流なのだそうだ。今まで姫路までだった商圏を、より多くのお客様に誠屋の商品を届けるため、神戸まで拡大させるのだという。課題となってくるのは物流面での利便性だ。岡山には既にいくつもの配達ルートがあるため、急な追加注文にも対応することができるが、出だしの段階では、神戸に倉庫を置くことはできないため、岡山で注文を聞いて荷物を詰め、夜のうちに運ぶことになる。しかしこの場合、お客様の急な注文に対応できない。ルートが増えると、大量の在庫が置けるようになるが、それまでの間、誠屋が築いてきた物流の利便性をどう伝えていくかが課題だそうだ。神戸の栄養士会の方からは、すぐに来て欲しいと声がかかっているそうだ。
また、神戸開拓には、プロジェクトチームを組んで、専務や常務などのトップが先頭に立って一気にルートを開拓してくそうだ。重要な場面でトップが率先して動くことが、誠屋の社員にとって、支えられているという安心感に繋がっているのだそうだ。

通販事業では、Amazon、楽天などの巨大通販サイトの力を借りて早急に利益拡大を目指すと櫛田常務は話す。誠屋で扱う商品の多くは専売品のため、少なくとも岡山県下では、誠屋との巡り合わせがない限り、これらの商品を手にすることはできない。そこで大手通販サイトの利用者の目にも留まるようにすることで、より多くのお客様に商品を届けることが狙いだという。ただ、櫛田常務の考えでは、あくまでも通販事業はサブで、メインは足を運んで取引しているお客様だそうだ。

総合食品商社として幅広く食品全般を扱ってきた誠屋だが、近年では徐々に医療分野に特化し始め、今では扱う商品のほとんどが専売品となった。今後は、医療分野に絞りつつ、扱う商品を増やしていくというのが、誠屋の考えだ。その方法として、新たに自社での商品開発がある。その商品の1つに、大学の教授とタイアップして開発した納豆がある。納豆には、血液を固めるビタミンK2が豊富に含まれていて、血液をサラサラにしないといけない患者さんは今まで納豆は食べられなかった。そこでビタミンK2の含有量の少ない納豆の開発に着手した。研究に3年ほどかけて成功し、今ではより多くの人が食べられる納豆が販売されている。

また、取引している幼稚園、保育園などの地元の商店などと競合しないように、一般商店では取扱いのないノンアレルギーの商材の取り扱いも今後どんどん増やしてくそうだ。

このように、既存の商品では満足をお届けすることができないお客様に向けても、今後誠屋は商品を届けていきたいと考えている。
インタビュアーから
いつも当たり前のように生活の中にある「食」。インタビューから、人々の命を繋ぐ「食」を支えるという使命を持って働いているのだということを強く感じました。ただ運ぶだけではなく、ただ電話注文を受けるわけでもない。そこには、販売を通じて提供するヒトの価値が、今日もお客様への貢献に繋がっているのだと思いました。