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鋼材店とは鉄の流通を担う仕事
鋼材店は流通・卸売業に分類される。意外に思った人もいるかもしれない。事実、鋼材店と聞いて鉄を作っている会社だと思われることが多々あると大森洋一社長は語る。実際は製鉄所が鉄を作っており、鋼材店は製鉄業者から鉄を大量に仕入れ、顧客の要望に合わせて鉄の加工・販売を行っている。
具体的には、JFEスチールなどの鉄の製造メーカーから大量に鉄を仕入れて、自社の倉庫に在庫をする。お客様から要望があると、必要分だけを小分けにし、時には加工を加えた状態で納品するという仕事だ。例えるなら鉄のスーパーマーケットという位置づけである。スーパーはメーカーから箱単位で仕入をし、バラ売りができるように売り場に陳列する。お客様はキャベツ一個とか、お菓子を一つとか、ジュースを五本と必要分だけ買う事ができるといった具合だ。鉄で言う加工というのはスーパーでいうお惣菜の様なイメージで、野菜を丸のまま売るのではなく、切ったりして納品するという事である。

▲ 加工を施した鉄

▲ 加工を施した鉄

▲ 加工を施した鉄

鉄はあらゆるところで使われる身近な金属
鉄は安く加工性が高いため、多くの製品に使用される。身近なもので挙げるなら机や車、建物の基礎などがある。ガードレールや照明灯なども鉄でできている。そのため、鉄を卸す先は建築、土木、農機具メーカー、造船関係、産業機械、電気関係、自動車関係と多岐にわたる。また、一部鉄以外の金属、ステンレスやアルミ、銅などの非鉄と呼ばれる金属もあつかっている。鉄をメインで使うが、一部にステンレスを使いたいとき、ステンレスのみを専門業者に頼むのは手間がかかる。そのような場合に鋼材ステンレスをメインに使うが、一部鉄を使いたいという逆のケースもある。そのため、非鉄を専門とする業者が鋼材店の顧客となっていることもあるそうだ。

▲ 色々な種類の鉄

▲ 色々な種類の鉄

▲ 色々な種類の鉄

大森鋼材店の生い立ち
▲ 平成10年に移転してきた南区郡の事務所
大森鋼材店は昭和25年4月に設立された会社で、大森洋一社長で3代目になる。社員数は40人弱(2015年9月時点)で3分の1が事務、3分の1が作業員、残り3分の1が運転手だ。大森鋼材店は岡山市北区東島田のこじんまりとした倉庫からスタートした。配達は馬車や1トン車で行っていたという。当時は倉庫付近が商圏という小規模な鋼材店を営んでいた。その後、昭和47年に当時田んぼが広がっていた福富に移転した。しかし、次第に福富に住宅が増え、頻繁にトラックが住宅地を走行することや夜間の自動切断作業中の鉄片の落下音が騒音になるという問題を解消するために平成10年に現在の会社の所在地である岡山市南区郡へ移転した。それに伴い、鉄の小売販売だけでなく、加工も本格的に行うようになり、県南を中心に北は建部、東は備前、西は高梁から総社、玉島、金光までを商圏として鉄を販売している。
経験を重ねて信頼関係を築く営業職
営業に携わる人は誰しも最初から専門知識を持ち合わせているわけではない。皆、仕事を通じて知識や経験を少しずつ身につけるのだという。営業職で入社した場合、まずは作業員と一緒に倉庫で働きながら半年ほどかけて扱う商品のことを覚えていく。伝票を見て、実際に扱う品物の形や長さを見て覚えるのだそうだ。一般的には大体1年で営業回りができるようになり、2、3年経つと慣れて独り立ちするという。営業職はお客様といかに信頼関係を築くかが重要になってくる。日々世の流れを知り、雑談を交えて相手の興味を探りながら距離を縮めていくことが次回の受注にもつながる。また、事務所で営業事務や経理を行う仕事もあるそうだ。

▲ 倉庫で伝票を見ている営業

▲ 事務所で仕事をしている事務員

鋼材店とお客様の橋渡し役、作業員と運転手の仕事
▲ 玉かけのミスは命に関わるため資格が必要
作業員には2つのタイプがある。製鉄所から仕入れた品物の加工を行う作業員と、倉庫に備え付けられたクレーンを使ってトラックに品物を乗せる玉かけ作業員である。クレーンの作業には玉かけの資格が必要であるが、機械作業には資格は必須でないそうだ。また、溶接も少し行うことがあるが、こちらも資格は必須ではない。運転手は運送会社に依頼する鋼材店もあるようだが、大森鋼材店は自社にトラックを所有し、運転手も社員として雇用している。繁忙期、どうしても人手が足りないときだけ運送会社に配送を依頼するのが現状だ。トラックは3トン車、4トン車、8トン車、15トン車を全部で10台程度所有しているという。また、その日どのトラックがどの方面を担当するか伝票をもとに組み合わせる配車係もいるのだという。基本的には1日2回配達を行うので、商圏は必然と近隣に絞られることになる。

▲ クレーンを使ってトラックに載せる

▲ 鉄を切断しているところ

▲ 鉄を切断しているところ

地域密着型の顧客同士をつなぐ会社へ
▲ 縁を大切に、鉄を媒介にお客様をつなぐ
鉄はきちんとシートをすればサビることも少ないため、県を超えて離れた場所で営業を行うことも可能だ。しかし全国展開をしようとは考えていない。地場に密着した、取引を行っているお客様との縁を大切にした会社でありたいというのが大森社長の考えだ。大森鋼材店の強みは岡山では珍しい、切断や穴あけ、溶接などの一次加工も請け負っている鋼材店であることだ。従来、メーカーから仕入れたままのサイズで顧客の注文に応じて販売していたのだが、近年、顧客である鉄の加工を担ってきた鉄工所の人手不足の影響から、穴あけや小さいサイズに切断するなどして、後は組み立てるだけの状態で納品してほしいという要望が高まってきた。顧客のニーズに応えるべく、現在の所在地への工場移転を機に加工を本格的に引き受けるようになったという。最大限お客様の要望に応える仕事をする。これが大森鋼材店のモットーだ。そのため、自社の営業がお客様のところを定期的に回っていることで顧客のニーズを汲み取れるよう努力している。どの会社も仕事が溢れると断らざるを得ないが、やはり一度できた顧客とのつながりは大切にしたいと考えている。その悩みを引き受け、繁忙期で仕事が溢れている企業の仕事を引き受けてくれる企業に依頼するというように顧客の中で仕事を融通できるような助け舟を出すこともあるそうだ。忙しい企業ともう少し仕事を受けたいと考えている企業のどちらにとっても利益になる取り組みだ。大森鋼材店はこれからもお客様の細かなニーズに応えながら、地場に根付いて成長を続けていく。
インタビュアーから
インタビューを通じ、鋼材店とは私たちの生活の基礎を支える身近な会社であることがわかりました。競合他社と同じ形や材質の商品を扱うからこそ、地域やお客様とのつながりを大切にする。その姿勢が海外との価格競争など自社努力とは別の外的要因も多い鋼材業界で生き残っていく秘訣なのだと思いました。